出発
2002年、サッカーワールドカップ日韓大会で遅刻騒動を起こし、一躍有名になった国がある。西アフリカのカメルーンだ。
国土は日本の1.3倍、人口は約2300万人。貧しいが、人々は穏やかで、時間がゆっくりと流れている国である。
ほぼ専業主婦だった20数年前のある日、電話が鳴った。
「子供たちのためのボランティアをやらない? アフリカなんだけど」
時間もあるしと、あまり深く考えずに引き受けたその時から人生は一変した。
現地に行くための研修が終わって2ヶ月後、2人のメンバーと一緒に成田空港からカメルーンに向けて出発することになった。選んだ航空会社はパキスタン航空。安いからという理由だけで南周りを選択したが、乗り換え地のパキスタンまで何ヶ国にも立ち寄ることなど知らされず、飛行機が高度を下げるたびに、「墜落するんじゃないよね」と3人でハラハラしていた。
同行したメンバーのひとりが、先に現地に行っている人たちから出発間際に受けた連絡は、「寒くて仕方がないから毛布を持ってきてほしい」というものだった。
アフリカなのに寒いの? 不思議に思いながらも、途中、空港に立ち寄るたびに、免税店で毛布を探してみたが、売っている筈もなかった。
「まもなくパキスタンへ到着します」とのアナウンスが機内に流れた。頼まれた毛布は手に入りそうもない。私は、意を決し、機内で使った毛布をもらえないか、日本人の乗務員にお願いしてみた。
「お持ち頂いても良いですよ、とは申し上げられません。でも私は何も見ていないことにします」
航空券代は安いのに、機内で使用していた毛布はしっかりとしたものだった。航空会社からカメルーンへ移動した毛布は、その後何年にも渡って大活躍することになるのである。