【りんごの花】
「お花はいらんかね」
秋も終わりに近づいたある日、庭の草むしりをしていると、門の向こうから声がした。
振り返ると、そこには年季の入った手押車に花や盆栽をたくさん積んだおばあさんが立っていた。
ただでさえ増えすぎた鉢植えを減らそうと苦心していたところだ、買うつもりはない。
しかし、花好きの好奇心が頭をもたげる。
手押車をのぞき込むと、自己主張している鮮やかすぎる花たちの中に、小さな実をたくさん付けた観賞用のりんごの木がひっそりと乗っていた。
「いくらですか?」
値段を聞いて諦めると、値引きするからとおばあさんは言う。
「10年も育てたんだよ。花が咲くとかわいいんだよ。」
親しみを感じさせる独特の方言と、少し寂しげなおばあさんの表情に負けて、その観賞用のりんごは我が家の一員となった。
「また増えちゃった」
ため息をつき、空いている鉢に植え替えると、形の良いりんごの木は様になった。
やがて年末から始まったリフォームで庭は廃材置き場と化した。
鉢植えは隅に追いやられ、気が付くといくつかは枯れてしまっていた。
「りんごもだめだろうな」
半分諦めながら、それでも水やりを続けていると、葉が出始め、やがて白い花が咲いた。
「かわいいんだよ」
10年も大切に育てた盆栽を売りに来たおばあさんの言葉を思い出す。
本当にかわいいね。おばあさんに心の中で答えながら、厳しい冬を乗り越えて花を咲かせたりんごを見せてあげたいなと思った。