たたかうボランティア

 数年が経ち、活動が安定すると、街に一人で出かける機会も減り、トラブルに巻き込まれる心配をすることも少なくなってきた。

ただひとつ例外がある。空港でチェックインする時だ。ここには乗客しか入れない場所がある。

帰りはいつもパンパンにふくれたスーツケースを二つ持ってチェックインカウンターに並ぶのが常だ。エコノミークラスでは預ける荷物の重さが厳しくチェックされる。宿所には秤がないので、長年の勘で、これくらいかなと思うまでカバンにお土産を詰め込む。

チェックインカウンターに並ぶ前に、スーツケースの重さを測る場所がある。いかにもな灰色の白衣っぽい制服を着た係員は、少しでも規定の重量をオーバーしているとカウンターへの列には並ばせてくれない。

ところが、この係員、空港職員でないことがたまにある。二つの荷物のバランスを取ろうと部屋の隅でスーツケースを開けていると、同じ制服を着た別の人がやって来て、勝手に荷物を持って行ってしまうのだ。

そこで自己主張しないと大変なことになる。スーツケースはラップの親分みたいなビニールでぐるぐる巻きにする機械に乗せられ、透明なミノムシ状態にされてしまうのだ。もちろん有料である。

何年か前のこと、いつものごとくカウンターに並ぶ前に、重量をオーバーした荷物の詰め替えをしていたら、スーツケースが蓑虫製造機械のところへ運ばれてしまった。ファスナー開けっぱなしのもう一つのカバンを抱え、「それは頼んでいない!」 とスーツケースを取り返すと、今度は別のカバンを持って行かれてしまった。それも取り返すと、今度は最初のスーツケースが再び機械の上に乗っている。

相手は3人、対抗するのは容易ではない。結局スーツケースはビニールに巻かれ、灰色白衣の職員は代金を払えと言ってくる。

「お金は全部使ってしまってない」 と答えると、手に持っているじゃないかと言う。空港使用税を払うために小さくたたんで握りしめていたお札をめざとく見つけたのだ。

チェックインカウンターは出発の何十分か前になると閉まってしまう。仕方なく灰色白衣の職員にお金を払い、列に並ぶ。横目で見ると、彼らはケタケタと笑っている。手続きを済ませて外に出、見送りに来てくれた人たちに怒りをぶつけると「それが彼らの仕事だからね」 と驚きもしない。

次の年は、空港まで送ってくれたメラニーが、何故か乗客しか入れない場所にまで付いて来てくれた。そこに入るためにどんな交渉をしたのかは不明だが、気がつくとフランス語で荷物検査の係員とやりあっている。彼女は私に「ちょっと待っててね」と言うと、どこからか別の職員を連れてきた。口論していた相手の上司らしい。

「荷物を通してあげるから、その代わりにお金をよこせと言うのよ。それは良くないことだわ。私、この空港の管理職と知り合いなの」メラニーは言った。

 

みんなとお別れの挨拶をして出国手続きを済ますと、今度は本当にひとりだ。だが、ここで安心してはいけない。機内持ち込み手荷物のチェックが待っているのだ。

ある時は、おみやげのコーヒーの持ち込みは2つまでと決まっているので、追加料金を払えと言われた。また別の時は、こわれものだからと機内持ち込みのカバンに入れた土で出来ている小さな人形を、これは凶器になるから持ち込み禁止だと言ってくる。どうやったらこんなのが凶器になるんだと聞いたら、これで相手を殴れるというのだ。だったら機内食についてくるプラスチックナイフの方がよっぽど危ない。

「あなたは私にお金をよこせと言っているわけ?」と大声で叫んでも、まわりにいる乗客は見向きもしない。慣れっこなのだ。

ちなみにスイスで乗り換える時に、この土の人形は凶器になるから持ち込み禁止と言われたんだけど、と聞くと係員に鼻で笑われた。

チェックインを済ませて出てくる私が、いつもあまりにも怒りまくるので、最近は別のちょっと不便な空港を使っても現地のメンバーは何も言わなくなった。

それにしても思い出したら、また頭にきた。なんとかならないの? ヤウンデ空港!