【ランチは、はるか彼方に】
空には雲ひとつなく、カラッと乾く洗濯物が気持ちいい。
干したお布団からは太陽のにおいがしている。
こんな日のおかーちゃんは上機嫌だ。
「ハナちゃん、ランチ行く?」
「行くぅ♡♡♡」
今日は何をしても叱られそうにないな。
ハナちゃんは、おとーちゃんと夏芽ちゃんをお供に、この前から目をつけていた新しいお店に行った。
ラッキーなことに、ひとつしかないテラス席が空いているじゃないか。
大きな柿の木の下で、心地よい風に吹かれながらのランチタイムだ。
やがて、前菜がテーブルに置かれた。
さあ、お皿にジャンプだ!
ハナちゃんは、身を乗り出し臨戦態勢に入った。
とその時、おとーちゃんの手が伸び、前菜をさらって行った。
「あら、おとーちゃん、おかーちゃんの分も食べちゃったの?」
上機嫌のおかーちゃんは怒らない。やっぱり。予想通りだ。
こうなったら何が何でもいただくぞ!
ハナちゃんは、メインディッシュまで待つことにした。
しばらくすると、パスタとリゾットが運ばれてきた。
さあ、今度こそ!
ハナちゃんは、狙いを定めた。
すると、おとーちゃんが言った。
「おかーちゃん、半分ちょうだい」
「いいわよ」
おとーちゃんは、おかーちゃんのお皿を持って行ってしまった。
ハナちゃんの席からおとーちゃんの席までは距離がある。
「届かない・・・」
ハナちゃんが次の作戦を考えている間にランチタイムは終わってしまった。
「あー、おいしかった。満足、満足」
おとーちゃんは、幸せそうな顔をしている。
そりゃ満足でしょ、二人分食べたんだもん。
ハナちゃんなんか、何にもありつけなかったんだよ!
ふん!おとーちゃんなんか嫌いだ!
ハナちゃんは、ふくれっ面でカートに乗った。
今晩は、おとーちゃんのお布団にもぐり込もう、トイレの代わりにね。ふんっ!